【有給休暇の買取はできる?】知らないと危ない年次有給休暇のルールと注意点
- MSL社会保険労務士事務所 代表 綱島 渉
- 4 分前
- 読了時間: 5分

✅ はじめに
「有給休暇、消化しきれないし買い取ってほしい…」
「退職時に残った有給休暇をお金で払っていいの?」
事業主・労務担当者の多くが一度は直面する「有給休暇の買取」問題。
実は、有給休暇の買取には労働基準法上の厳しいルールがあるため、
安易な対応をすると法令違反や労使トラブルにつながることもあります。
今回は、社労士の視点から有給休暇買取の可否、注意点、適切な運用方法についてわかりやすく解説します。
📕 目次
✅ 有給休暇の買取は基本的に禁止されている?
労働基準法では、年次有給休暇は**「労働者に与える休暇」であり、
お金と交換(買い取り)することは原則として禁止**されています。
なぜなら、有休の本来の目的は心身のリフレッシュであり、
金銭で代替できるものではないという考え方があるからです。
✅ 法的に認められる買取ケース
例外的に、有給休暇の買取が合法的に認められるケースは以下の2つです。
① 時効で失効する前に買い取る場合
年次有給休暇には2年の時効があります。
時効により消滅する前に、企業が任意で買い取ることは可能です。
② 退職により取得できなくなる場合
退職日までに年次有給休暇を使い切れず、実質取得の機会がない場合は、
未消化分を金銭で買い取ってもOKとされています。
✅ 退職時の有給休暇の買取について
退職者が有休を消化できないとき、未取得分を最終給与と一緒に買取することは割とよくあります。
これは法律違反ではなく、労使間で問題のない範囲であれば認められます。
ただし、以下の点に注意しましょう。
本人が「使い切る」と申し出ているのに買い取ることの強要はNG
最終出勤日と退職日をどう設定するかで計算が異なる場合あり

✅ 有給はいくらになる? 買い取り時の計算方法
有給の買い取り時の計算方法としては、以下の3つのパターンがあります。
① 通常賃金で買い取る場合
通常賃金とは、通常どおりの勤務をした場合に得られる賃金のことです。
月給額÷その月の所定労働日数
② 平均賃金で買い取る場合
平均賃金とは、直近3か月の賃金総額を、その期間の総日数で割った賃金のことです。
ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、総額を労働日数で割った額の6割に当たる額の方が高い場合にはその額を適用する場合もあります(最低保障額)。
③ 標準報酬月額を利用して買い取る場合
標準報酬月額とは、健康保険法によって定められている保険料額を算定する際に用いられる金額です。
標準報酬月額の30分の1に相当する金額が有給を買い取る金額となります。
なお、標準報酬月額による算定を選んだ場合には、書面による労使協定の締結が必要になります。
※①通常賃金で買い取る場合が一般的です。
✅ 有給の買い取り金額の決め方
有給の買い取りは、法律上の制度ではないため有給の買い取り金額の決め方には法律上のルールはありません。
そのため、会社の就業規則などで、有給買い取り時の計算方法についてのルールが規定されている場合には、それに従いましょう。
しかし、そのような規定がない場合には、会社との話し合い、上記3つの計算方法のどれか1つを選択し、算出することになります。

✅ 事業主は有給の買い取りに応じなければならないのか?
答えはNOです。法律上そのような義務はありません。
ただし、就業規則などに有給の買い取りについて規定されている場合には、事業主に買い取り義務が生じることがあります。
✅ よくあるトラブルと実務上の注意点
「有給休暇消化せず毎年現金化」 → 本来の制度趣旨から逸脱
「買取を強制された」 → 労働者からの申告リスク
👉 就業規則に年次有給休暇の買取について明確な取り扱いルールを記載しておくことが大切です。
✅ 医療機関などでの具体的対応例
病院やクリニックでは、交代制勤務・人員確保の難しさから、
「有給休暇を取りづらく、消化率が低い」傾向があります。
そのため、退職時にまとめて買い取るケースが多いです。
👉ポイント
有給休暇管理簿をしっかり記録
医療職特有のシフトや夜勤体制にあわせた柔軟な運用
トラブルを防ぐために就業規則に記載を
✅ まとめ
有給休暇の買取は、原則禁止ですが一定の条件下では可能です。
特に退職時や時効前など、例外的な対応は認められていますが、
日常的な買取制度の導入は注意が必要です。
労働者の権利と法令遵守のバランスをとりながら、
ルールを明文化し、運用を徹底することが実務上のトラブル防止につながります。
MSL社会保険労務士事務所では、医療機関向けに特化した労務サポートを提供しています。